



red cardigan, silver envelope, sweat
本作《red cardigan, silver envelope, sweat》は、日常の偶発から立ち上がった、4枚組の写真作品である。
撮影のきっかけは、自宅に偶然届いた一通の銀色の封筒だった。送り主も記憶に残らないほどの些細な配達物。その反射面に、ふと自分の姿や周囲の風景が映っているのを見つけた。封筒のサイズと中身の不一致から生じた微細なたわみ、輸送中についたいくつかの擦れ傷、それらが表面を柔らかく歪ませ、水面のような揺らぎを生んでいた。
かねてから、水面に映る像―確かでありながら、いつも揺れて、掴みきれない像―に惹かれてきた。この封筒の反射像も同じように、“見ること”そのものを問い直すような曖昧さを孕んでいた。そこに赤いカーディガンをまとった自分、黒いカメラ、木々の緑、空の光が映り込み、さらに撮影の最終段階では、暖かい日中のなかで顔からこぼれ落ちた一滴の汗が、そのまま像のなかに残された。
封筒とは、本来、情報を封じ、目的地へと届けるための機能的なパッケージである。その役割から逸脱したこの銀の封筒は、いつしか光と身体の痕跡を抱え込むメディウムへと変質していた。そこに映る像は「何か」を明確に写そうとするものではなく、むしろ像が生成され、撓み、通り過ぎ、失われていくその条件を可視化するような痕跡である。
この4枚は、日常の中で立ち上がった偶発的な素材と、意識的に揺らぐ像へのまなざしとが交錯することで生まれた、“映ってしまったもの”の連なりである。 明瞭な構図や制度に従うことなく、歪みや汗の痕のような小さな異物を通して、「像であることの境界」を探る試みとなった。
Photograph
Release date: the 17th of November, 2024
Release date: the 17th of November, 2024